2010年3月30日火曜日

京都OHBL奥田浩子のBeauty Memories      "春の風”



春一番が吹く頃になると思い出すのは、人生初めて大きな挫折を味わって,
思い切りへこみながら、阪神高速を走った事だ。
当時、大阪福島区に住んでいた私は、
テレビもなく、エアコンもなく、
かなり簡素な引っ越し道具一式を、
小さなトラックに積み込み、一路京都の実家へと向かっていた。
春のあたたかい風に吹かれながら、
心の中は、とてつもなく深く青いまま、
少々傷つき、少々怒り、少々投げやりな気持ちになって、
これからの未来が、不安で不安でいっぱいだった。
何かしらの結果もなく、やり遂げた充実感もなく、
空洞のような気持ちになって、情けなくてたまらなかった。
両親が大反対の中、
勝手気ままに何の相談もせず、今の仕事を選んだ私は、
いろいろな事が重なり、東京大阪へと転々としたあげく、
一旦職を失い、お金もなく、
最後は引っ越し道具一式と、行き場のない気持ちを、
父親が借りてきた小さなトラックに乗せて帰京したのだった。
阪神高速をとばしながら、
父親も私も何一つ言葉を交わさなかった。
いっさい口をきかず実家までたどり着いたので、
逆に三十年近くたった今でも、
なぜか、しっかりと深く心に刻まれている。

ちょうど今頃、春の風が吹く頃に、
勝手な娘に何一つ言葉を交わさなかった父親と、
阪神高速から見た景色と、
決して泣かずに、ただ気持ちだけが泣いていた自分が、
とてもせつなくよみがえる。
様々に、与えてもらったものよりも、
無口だった父親の思い出が、
心に深く、今もずっとしみている。