2006年2月23日木曜日

京都OHBL奥田浩子のBeauty Memories      "顔の再誕生"

<2002年12月11日京都新聞 双曲線に奥田浩子が寄稿>

「メイクアップは嫌いです。」     
その人はそう言いながら、私の前に座った。
私は「そうですか。」とうなずきながら
「でもちょっとだけ眉を整えてみましょうか。もしも嫌なら二、三日ほっておけばまたもとどうりになりますから。」
などと言いながら、その人の顔を触りはじめた。
その人は眉を整えた後まんざらでもない様子で、結局最終的にはメイクアップを全て施して、嬉しそうな表情で帰って行った。
またある人はアトピー性皮膚炎でとても悩んでいて、メイクアップのレッスンに
来ているにもかかわらずほとんど鏡を見ないのでなかなかうまくいかない。
私はその人の顔を何度も何度も触りながら、ゆっくりレッスンを進めて行った。
するとその人は自分の顔がメイクアップによって変化する様を始めはちらっちらっと見、そして最後には鏡をのぞきこむようになっていった。          
こんな事を、今まで数多く経験してきた。

近年様々な女性雑誌では、メイクアップに関する記事はどんどん増え続けている。又、化粧品においてもシーズン毎に新製品が発売され、デフレ時代といわれる今もデパートの一階は化粧品を求める女性達で賑わっている。最近では十万円のクリームも発売されたそうだ。
女性が化粧品を求める行為には、当然「キレイになりたい」という気持ちがあっての事だと思うが、化粧品を購入すれば「キレイになれる」という期待は、はずれに終わる事も多々ある。結果、前述した女性達も落胆に近い気持になり、それ以来「メイクアップは嫌い。」だと思いこんでいたそうだ。又メイクアップが女性の特権だと思われていたのはもう昔の事の様で、今は高校野球の球児たちも眉を整えている時代になった。    
             
 顔は、大事である。
         
大切な身体の中でも、顔はやはり特別な存在であると思う。
人は顔をみて人を認識し、顔をつかって泣いたり笑ったり怒ったり。
顔の印象で恋がはじまり、生まれた子の顔をみて
「やっぱり二人共に似ているね。」
などと言って微笑みあう。
少しずつ年老いてきた顔をしみじみとみつめ、
人の最期を見送る時にも顔をみて悲しみにくれる。
又昔から「人を見た目で判断してはいけません。」といわれるほど、
私達は人を見た目で判断してしまっている。
この現代社会においては特にその傾向が強まっているのではないだろうか。
              
 顔は、大事である。  
        
その大事な顔を少しでも美しくみせたい、
自分でも美しくみたいのは当然の事であろう。
顔を美しくする為には、有効な化粧品を活用するのはもちろんだが、
何よりもテクニックのノウハウを知り練習する事が必要である。
顔は日々成長していくが、美しさは自分自身で育てていくものだ。
そしてもっと大切な事は『触る』という行為ではないかと感じている。
まずは見て、触る事、触ろうと思う事が、
メイクアップのはじまりであるように思う。
        
昔私の師であったアーティストが
【メイクアップとは顔の再誕生である】と謳い、
私はその言葉に心から感動した。

メイクアップとは単に化粧品を使う事ではない。
メイク・アップとは、内面外面から顔の価値を上げる事である。

私はこれからも触る事、そして触り方を伝えていきたい。

触る事が嫌いな人や触る事を忘れてしまった人達がその大切さを思い出してもらえるように、人の顔を、誠意をもって触りつづけていきたいと思っている。